MFT#020 『PAST EMOTION』椿屋四重奏

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自分にとって永遠の憧れに等しいバンド、椿屋四重奏。その解散に当たってリリースされたライブDVD。

彼らの解散が発表された2011年1月11日、高校の授業の合間に何気なく携帯を開いた僕の目に飛び込んできたそのニュースはあまりにショックで、当時同じくファンだった同級生と動揺を重ねていた記憶がある(ちなみにその友人はその後大学の修士課程まで道を同じくすることになった)。同じように解散を悲しんだこの友人と示し合わせて、彼はベストアルバムを買い、僕はこのライブDVDを買い、お互いに貸しあった。

 

椿屋四重奏との出会いは彼らの活動期間のかなり後ろの方で、なんとなく深夜に見ていたスペシャか何かで『いばらのみち』のMVが流れていて、それに大きな衝撃を受けたところから。僕は昔からどこか歌謡的なメロディに惹かれていた節があり、それに加えてアジカン→RAD、BUMP→UVERと辿ってきた邦ロックの道筋とが交わった先が彼らだった。

 

何かと歌謡ロックなイメージが先行し、歌い方も相まって時にはヴィジュアル系とのつながりも指摘されたりする彼らだが、本質にあるコンポーザー中田裕二の作曲力とセンスにおいてこそ語られるべきであると思う。アルバムごとにそのカラーを変えつつ、初期のガレージ感の強かったハードな方向性、『薔薇とダイヤモンド』で頂点を迎え結集されたギターロックとしてのバランス感、以降2作でJPOPとしての多様さに挑み、その終着地となった『孤独のカンパネラを鳴らせ』においては今までの全要素を包括した円熟みとまだまだ先を感じさせるエネルギーを見せ、それは中田裕二としてのソロの活動に継承された。椿屋四重奏において僕が特に好きなのがギター2本が奏でる歌メロに絡める"裏メロ"で、それらは単体でも十分に流麗に流れながらも、2本が重なり、さらに歌メロが乗った時に真価を発揮するクレバーさがある。

そして、絶妙に弾いていて楽しいギターなのだ。複雑なコード進行、気持ちよく挿入されるオブリは歌いながら弾く難易度が高いながらもそれを想定された作りになっていて、それ故にギターボーカルとしてプレイした時にその気持ちよさが炸裂する。6年間在籍したサークルの中でもっとも数多くコピーしたのが彼らだったのも頷ける。

 

解散から早くも9年経ってしまった。未だにラストシングルとなったJPOPとしての最高傑作『マテリアル』を聴くと、彼らの影の大きさに涙腺が緩む。ないものねだりなのかもしれないが、そろそろ、限定的にでいいから、もう一度ライブをやってくれないかと思わずにはいられない。生の彼らの演奏を聴けば多分墓場まで持っていける感動が得られると思うのだ。