MFT#019 Cyriocosmus ritae

f:id:tomaton-tt:20200519221147j:image

青みがかった足に入る青白色のバンド。お腹の模様も盾型の金色を中心に茶色、黒がバランスよく並ぶカラフルさ。CyriocosmusきってのKAWAIIカラーでスター気質に満ち溢れたritae先生。

 

Cyriocosmus属はタランチュラの仲間の中の一属で、南米に産する小型種のグループである。成体で大きめの500円玉くらいの大きさしかない。タランチュラというと大きくて茶色い毛むくじゃらなクモをイメージする人が多いのかもしれないが、その実、実に多様なグループのクモである。ある者は潜水し、ある者は蓋付きの穴を掘り、ある者は樹に登り、集団生活するものまで。色彩も大きさも多様で、一般的なイメージのクモよりずっと大きく、ペットとしての素質は十分であると言える。

とはいえ、僕も大学に入って都会に出、初めてナゴレプに行くまでタランチュラという生き物が本当に売り買いされ、飼育されているなんて思いもしなかった。研究室の先輩とイベントを巡った中で見つけたとあるクモ。ショップの店員さんに見せられた写真のあまりの青さに驚愕し、かなり高価だったが思い切って購入した。それがグーティサファイアオーナメンタル(Poecilotheria metalica)。確か小指の爪先くらいの大きさで15000円とかだった。

このクモは若干飼育にクセがあると言われているグループであり、動きも早く初心者には向かない。当時知識のなかった僕は満足な飼い方を出来ず、脱皮不全で死なせてしまった。ただ、この一歩目により完全に僕の視界は拓けた。そこからタランチュラの魅力にのめり込み、毎日のように国内外問わずブログやサイトを漁り、目に止まった種類の学名を記憶し続ける日々だった。そんな中、とある日本人のタランチュラ飼育ブログで目に止まったのが、Cyriocosmus ritae。僕は色使いが信じられないほどにハイセンスで綺麗なこのクモに惹かれ、そこから芋づる式にCyriocosmusという属にのめり込んでいった。

ペットとしてのタランチュラの流通のほとんどは、ヨーロッパを中心とした繁殖個体に依っており(野生個体の採集に依ることが多いエキゾチックペットにおいて、これだけ人の手による繁殖にベースを置いている生き物は少なく、これは環境への影響を考えると非常に好ましいことだと言える)、日本において手に入れるにはそれらを一挙に輸入し販売しているショップに頼るのが最善の道である。そして辿り着いたのが、界隈にとっては夢のようなショップである東京のタランチュラ専門店、RAIN FOREST。就活で上京した際に初めて入った店内、当時はまだ上野にあったそのショップは所狭しと並べられたプラスチックカップに数えきれないほどの種類のタランチュラが収められる夢のような場所だった。実は自分が就職先を東京に絞った大きな理由の一つがこのショップだった。

ritaeをはじめとする数々のCyriocosmusを購入したのもここ。その中でもこのritaeは、ブリーダーズイベントにRAIN FORESTの繁殖個体として委託されていたものを購入したもの。イベントから帰宅後に購入したケースを再確認したところどうしても生き物の気配が感じられず、事情をお話ししたところ、改めて2匹送っていただいたという背景のある個体。

その2匹がうまく雌雄に分かれた(タランチュラは数mmサイズの子供が販売されることがほとんどで雌雄判別ができない)ため、物は試しで掛け合わせてみたところ、難なく掛かってしまい、産卵まで持っていくことが出来た思い入れのある個体でもある。もっとも卵は食卵されてしまい子供を見ることはできなかったが。

タランチュラは近親交配の影響が大きい生き物であり、基本的に同親同士の交配はタブー視されている。その観点から言うと、もしかしたら無事子供が産まれても持て余してしまっていたかもしれない。ペットシーンの中にいると繁殖がとても当たり前のことのように思えてくるけど、自分の手元で生き物を再生産することは、それなりの責任感が問われることを忘れてはいけない。そんなことも考えさせてくれた個体。

今はまた体力が戻り始めたようなので、別親の雄を気長に探して、いずれは子どもが取れたらと考えている。まだまだ国内繁殖の絶対数が少なく輸入頼みのこの趣味、自分も繁殖で少しでも還元できたらと思う気持ちもある。

f:id:tomaton-tt:20200519223942j:image