カレーライスを美味しくするための技術的理解(ビーフカリー編)
辻知広
bookshelf bistro/distro, cllctv. works
1. はじめに
前稿(一年以上前だが)では、鶏肉を使ったカレーの作り方を述べた。それから一年、新しくいくつかのカレーに出会い、技術的な選択肢も増えた中、今回再びカレーライスをライブイベントで出店する機会に恵まれ、それに向けてビーフカリーの自分のなりの理解に努めた。
ここでいうビーフカリーとは、「印度咖喱」みたいな名前でレトルトパウチされてそうな(ビーフなのにインドとはいかに)、こすったら魔人が出てくるタイプのランプを半分に切ったような器でライスと分けて供されていそうな、そんなカレーを指す。
具体的には、「スパイスの香りがよく効いた、玉ねぎが香り高い、牛肉の入ったカレー」である。
その結果をここに示すとともに、そこに用いたいくつかのエッセンスも合わせて記載することとする。
早速ではあるが、今回の要点は以下となる。
- 玉ねぎは焦げ付く寸前まで炒め切ること
- 牛肉はルンダンとして本筋のカレーとは別途調理し、適切なタイミングで合流させること
- カレー粉は仕上げる直前に加え、加えたのちは過度に火にかけるのは避けること
2. 材料/手法
以下に本調理手法の典型的な材料を示す。15食前後を想定した分量表記となる。
カレーベース
- 玉ねぎペースト(250g)※特に種類は問わない。今回は業務スーパーにて炒め済みの玉ねぎペーストが500g200円台という破格で売られていたため、それを用いた。
- ココナッツミルク缶(1/2缶)※特に種類は問わない
- おろしにんにく、おろししょうが(こんなもんだろと思ってからプラス一押し程度欲しい)
- クミンシード(あると香りが立つ)
- カレー粉 ※S&Bの通販でカレー粉用のパウダースパイス、ホールスパイスが15種類ほど寄せ集めで5000円という大変素晴らしいソリューションがある。今回はそれを用い、自家製のカレー粉を作った
- フェヌグリーク(大さじ1ほど) ※耳慣れないスパイスだが、これにじっくり火を通すことで、カラメルのような甘みと深い苦味が出、味に奥行きが出る
- ガラムマサラ
- 塩
- チャツネ
動物性ベース(ルンダン)
- 牛肉(1kg前後)※煮込み用の腕肉等の塊で良い
- 玉ねぎペースト(250g)※カレーベースに用いた残り半分
- おろしにんにく、おろししょうが(チューブ状のものでよい)
- 塩(適量)
- ココナッツミルク缶(1/2缶)
- クミン、コリアンダーパウダー(それぞれ大さじ2ほど)
調理法は以下のとおりである。
- フライパンに底面が覆われる程度のサラダ油を敷き、玉ねぎペーストを強火で炒める。 / ルンダンを作る。(レシピは上にあげたものだけで良い。チリペッパーとかナッツは今回は使わない)
- 玉ねぎが透き通り焦げ茶色になり、焦げる寸前まできたらにんにくとしょうが、フェヌグリークを加え弱火でさらに炒める。
- 10分程度炒めたらルンダンが完成するまで一旦置いておく。
- ルンダンが完成したら、ルンダンと玉ねぎを合わせ、カレー粉を投入する。量は大さじ3-4杯程度。以降適宜調整。
- 残っていたココナッツミルクを加え、煮立ったら弱火にし、5-10分程度火を入れて全体をなじませる。
- 塩とガラムマサラをひるまずに入れる。カレーの主な味は塩、香りはガラムマサラで決まるのでこれら2種はひるまずに入れること。
- コクだしにチャツネを入れる。
- 味を見て、カレー要素に不安があればカレー粉、味が薄く感じれば塩を加える。口に含んだ時にコクが足りなければチャツネを加える。
- 完成!(完成ののち一日程度寝かせてから食べるとかなり美味しくなる。)
3. 方法論と考察
前回気づいた方もいる方は思うが、ここがある意味メイン。
初めのポイントについて、くどくどと再整理をする場である。
1. 玉ねぎは焦げ付く寸前まで炒め切ること
前稿では、玉ねぎはそれなりに炒める、程度だったと思うが、ちゃんちゃら甘い話であった。玉ねぎは焦げ付く寸前まで、可能な限りいじめ尽くすほどにカレーにおいて真価を発揮する、というのが一年間追加でカレーを作った上での結論である。
これに関しては、調理法にもリンクを置いた、とあるカレーレシピに強く影響を受けている。
このレシピはかなりうるさい感じのカレーオタクが書いているため情報の有用度が高い。ここには、玉ねぎを炒めるにあたって、
- 強火で炒め続ける
- 可能な限り玉ねぎは混ぜない
- 差し水をどんどんする
の3点をポイントとしてあげている。これらは今まで弱火でじっくり、焦げないようによく混ぜながら、差し水せずに玉ねぎを炒めていた僕にとっては、全く別の教義であってかなり面食らった。のだが、実際一度この方法でやってみると、全くもって正しいことがわかる。
ぜひ一度試してみてほしい。焦げそうなギリギリまで水気飛ばして、サッと差し水をした瞬間に、沸騰する水の中で玉ねぎの色がドンドン変わっていく様はクセになる。
今回のカレーは前回より材料がずっとシンプルで、それゆえにカレーのベースの全てを担う玉ねぎをいかに仕上げるかが肝だったわけだけど、このブログのおかげで無事美味しく仕上がった。ちなみにこのリンク先のスープカレーの作り方もかなり参考になるので、諸氏は一度これを見てスープカレーも作ってみるといいと思います。
野菜でわざわざスープなんか取らず、こんな感じのブイヨンの素とか、スープの素なんかを使ったほうが簡単ですし、きっと“わかりやすくうまい”です。正直なところ。
でもね、一度、このレシピどおりに作ってみてください。
そうすれば、「あー、なるほど。この食材だけで作ると、こんな味になるのか」とわかって、次からは、あの食材を加てみようとか、あの味をもう少しプラスしようとか、今日は時間がないから市販のスープの素を使おうとか、自分の中で調理のアレンジができるようになりますから。
と、かなりうるさいことが書いてあるんですが、これはその実かなり正鵠を射た指摘なので、胸に刻むと良いと思います。
2. 牛肉はルンダンとして本筋のカレーとは別途調理し、適切なタイミングで合流させること
2019年、自分が作ったカレーの中で大きな出会いだったのが、スープカレーとルンダン。ルンダンは会社で世界で一番うまい食べものとしてルンダンなるものがあるらしい、という噂を聞いて、気になって作り、結構ハマったもの。(その話を聞いた後で、千鳥の相席食堂をちまちま見ていたらルンダンが出てきて、ああ、この番組由来の話だったのか、となったという至極どうでもいい話がある。)
まぁ牛肉のカレー風味の佃煮だとよく言われているわけだが、要は水分をどれくらい飛ばすかの違いという話であり、ほぼカレーである。ただ、一般的なカレーよりもスパイス量が多いので、かなりスパイスがガツンとくる。ただ、ココナッツミルクで煮込まれた牛肉の旨味はまさにビーフカリーのもので、これと玉ねぎベースのシンプルなカレーを合わせれば結構美味しいビーフカリーになるんじゃないか、というのが今回のレシピの発端だったわけです。
時間はかかるけど、特に難しい作業が発生する料理ではないのでオススメです。ただし、これを作るということは、実質大量のスパイスを買うことを意味し、それは自家製カレーへの深刻な第一歩を踏み出すことにもなると言えるでしょう、、、。
3. カレー粉は仕上げる直前に加え、加えたのちは過度に火にかけるのは避けること
この一年間、それなりにカレーを作ってきたが、プロのスパイスカレーとの決定的な距離を埋められないままだった。その決定的な差はおそらく、スパイスがいかに香るか、にあることは間違いなかった。何度か試作を繰り返す中で気づいたのは、過度な煮込みはスパイスの香りを飛ばしてしまうこと、あとは、そもそもS&Bのカレー粉は悪くはないが、香りを求めると物足りないこと、だった。
また、いつも自分のカレーを試食してくれる同居人は、諸般の理由で色がつく食べ物を口にできず、市販のカレー粉に含まれるターメリックがまさにそれである、という問題点もあった。というわけで、前者は調理法で解決し、後者はカレー粉も自作するのが一番早いなとなったわけです。
参考にしたのはこのページ。まんまとS&Bのスパイスセットに5000円ぶん投げ、ターメリックを入れない以外はこれとほぼ同じレシピのカレー粉を作り、今回使っています(確かクミンとカルダモンを多めにしたくらい)。スパイスをちゃんとやろうと思うとどうしても数が必要なのと、ホールで売っていることはあってもパウダーで意外と売っていないスパイスがあったりするのもあるので、カレーをいろいろやってみようかと思う人はとりあえず5000円払うのが一番早いと思います。
結果、かなりスパイスの香りが立ったカレーが作れたので、一度体験としてやってみることを勧めます。
あとは、カレー粉と別に今回フェヌグリークを使っています。とりあえずカレーに使う基礎的なスパイスを集めた上で、ちょっと尖ったものを増やそうと思って、アメ横地下街で買ったのが、フェヌグリーク、カレーリーフ、フェンネルの三点。正直カレーリーフはよくわからんので何も言えないですが、フェヌグリークとフェンネルは結構面白いのでオススメも兼ねて少し。
フェヌグリークはレシピにも書いたように、かなり苦いスパイスです。これをじっくり火にかけることで、香ばしさと甘みが出ます。これは、カレーに隠し味としてコーヒーを入れる人がいるのと同じ作用なのではないかと思います。噛んでしまうと一気に苦くなる程度には主張が強いスパイスですが、少しだけ入れるとカレーにそれっぽさが出ます。ただ、これはビーフカリーみたいな苦味がプラスに働くカレー向けだなとは思います。イエローカレー系には入れなくていいでしょう。
フェンネルは、ネパール料理店とかにいくとたまにレジの横にお口直しにおいてあったりします。カラフルな糖衣に包まれたやつです。お口直しに使う通り、噛むとかなり爽やかになります。煮込んでも全然主張がなくならないので、使いどころは難しいですが、とりあえずエフェクターを並べるギタリストは多分入れちゃう系のスパイスです。僕も少し入れています。多分フィッシュカレーみたいな酸味があるカレーとか、魚料理のアクセントに使うんでしょうね。
今回は、全体的に材料がシンプルだったのもあって、前作よりはスパイスに気を遣いました。スパイス、うまくハマると香りがしっかり抜けた上でじんわりと汗が出るような、いかにも健康に作用しそうな効果が得られるので、薬膳的な感覚も得られ、良いですね。この一年で、また少しだけカレーのことがわかった気がするので、引き続き精進しようかなと思います。
4. 謝辞
旧ヤム邸、シャナイア、侍などなど、幾つもの有名店、行けてよかったです。自分の稚拙なカレー作りに少し立体感を出せたのはこれらの名店の味のおかげです。本カレーを出店させてくれた、京王堀之内time Tokyo、ありがとうございました。最終的に片付けをお願いする形になり、心苦しいながらとても助かりました。読んでくれた暇人の方々、ありがとうございました、また出店できる機会があればこんな記事を書くかもしれない。